専任制・3

ピアノの弦は、なかだかい造りの響板に張られることでY方向に屈曲が生じ、その方向の分力によって響板を圧縮している。音響学では、そうして圧縮することで響板材に本来的に内在する鳴り難さを低減し、弦振動に共鳴させて発音させている、と考えられている。この理論に基づけば、調律は響板に適切な圧力をかける作業である。そして、設計の側からみた調律の目的は、求める音程毎に設計弦長に応じて張力を補正する作業ということになる。

張力の計算式1を見よう。

ここで変数は

  • F = 周波数 (Hz)
  • L = 弦長 (cm)
  • d = 弦の直径 (cm)
  • T = 張力(g)

そして2つの定数

  • g = 重力加速度 (cm/sec²)
  • s = 弦の比重 (g/cm³)

周波数を求める式

math.freq

(π は円周率)から張力を求める式

math.tension

が導かれる。

2点間を引っ張ったときのことを述べているのだから当然だが、この式には角度に対応する変数は現れない。Y方向の分力、我々が謂うところの弦圧は、理論上は響板を圧縮するために必須なのに、計算では考慮されない訳だ。

響板のクラウンは、比較的全体張力が低いとされているスタインウェイでも、中央付近で9〜11mmに及ぶと、ハンブルク工場で聞いた覚えがある。オーダー10mm公差 ±1mmなのかもしれない。もっと差が大きかった気もするのだが、いずれにせよ最終的な弦が響板に与える力は250Kg〜300Kg近くにのぼり、10mmを超える厚みがあり響棒で弓なりのフォルムを補強されたスプルースの板を押し下げる。

設計計算上は、弦各部の張力をそれぞれ計算して足し合わせるのだろうか。

それとも、設計では、Y方向の分力は計算上無視するということなら、設計が指しているのが製品の理想的な状態である以上、現物では駒を挟んだ弦のY方向の屈曲は無視できるほど小さい、つまり 弦圧 ≒ 0 ということになりはしないか。

  1. 出典 http://park11.wakwak.com/~md440/temp/mwcalc.html ↩︎

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