お客様ご自身のピアノの場合、大抵は担当者が決まっていて、ほかの調律師がそのピアノに触れることは稀だと思う。
が、スタジオやホールは状況が違う。
スタジオの場合、メインテナンスと定期・都度調律を1社で請け負っていることが多い。
ホールの場合は現在、定期的なメインテナンスは、メインテナンス契約を落札した業者が行い、一般利用に伴う調律については業者を限定しないのが主流だ。
先にお断りしておくがMeiTei、出羽守ではない。しかし、ピアノのメインテナンスを生業とする我々が、実効性に富み効率的なメインテナンスを考える上で、ピアノ音楽の源流であり、その製造、メインテナンス、リペアの歴史そのものである「ヨーロッパでは」を問うてみるのは、有効な手段だろうと思う。
もう相当昔のことだが、ヨーロッパのさるメーカーの技術者が技術指導に来られたときのこと、あちらの多くのホールは専任技術者制をとっており、我々メーカーの技術者でさえ制限されることがある、ナンセンスだろ? と仰っていた。氏の憤りは当然のことだと思う。メーカーの技術者は、その製品を熟知しているはずだから。
MeiTeiもコンサートホールに出入りしている調律師の端くれとして、ピアニストのご要望で出張した先で、作業制限を受けたり現地の方が付き添いにみえたりすることもあり、うんうんそうそう と聞いていたのだが、専任制にはメリットがある と、だいぶ前に思うようになった。
なぜか。
コンサートホールやスタジオでは、たいていの場合同業者の仕事を承けるかたちで仕事をする。そうしたとき、自分が調律すると仕事が増える、コンディションを壊していると、随分若い頃から考えていた。
たとえばこういうことだ。
そこに出ているのは、前回のコンサートなりセッションなりを問題なくこなしたピアノだ。が、ユニゾンが少々乱れていたり、温湿度の変化でピッチやオクターブの関係が変わっていたりするので、全く手をつけない訳にもいかない。そもそも、手をつけないのであればそこに自分がいなくてもいいのである。料金も発生しなければ稼ぎもない。それでユニゾン拾うか、となるのだが、合わせたつもりの鍵盤の戻りが鈍く感じられるのだ。
1台まるっとユニゾンを拾ったとしよう。すると全部の鍵盤の戻りが鈍く感じられて、自分が調律したがためにコンディションが悪くなったな、と思う。それで今度はそれをケアするために、アクションに何某か手をつけなければならなくなる。ほらね、仕事が増えた。